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「以上、東京からお送りしました。」〜冴えない男のクリスマス編〜

どうも小山です!リセットしまして1話からの始まりです!ではさっそく!


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「温めますか?」

店員はそれがまるで当たり前かのように、ごく自然に聞いてきた。コンビニで商品を温めるかどうか聞くのはごく普通の光景だが、いかんせん俺が買おうとしているのは週刊誌とカップ麺だ。

「・・・・・。」

俺が押し黙ったままでいると、どうするの?温めないの?といった感じのキョトン顔で見つめてくる。俺は試されているのだろうか?この大学生くらいのバイトの男に。

「えっと・・・あの、どっちを・・・?」

何言ってんだ、よく考えたらどっちにしろどっちも温めねーわと自分の発言にツッコミを入れながらまじまじと店員を観察した。

コイツもいわゆる「負け組」なのだろうか。人はクリスマスに誰と過ごせるかで格が決まる。恋人と過ごすやつ、友達と過ごすやつ、家族と過ごすやつ。こういった類いのやつらは俺にとって格上の存在だ。今年もクリスマスがやってきてしまったが、俺の今日の予定はというと会社の終業時間まで残業である。そして、家に帰って待っているのは誰もいない部屋と、積み重なった家事。だが、目の前にいる、クリスマスにしけた顔で1日バイトしてるこいつと俺とで、負け組としての格は大差ないのではないだろうか。

「・・・・・。」

店員は無言でバーコードを打ち、会計作業が黙々と進む。
ここで、俺はあることが気になった。もし俺が「温めてほしい」と言ったら、店員はどういう対応をするのだろうか。今は俺が試されてる立場だがここで一言「お願いします」といえば一転攻勢である。気になる。温めますかの向こう側の世界が・・・!

「お会計¥500になります。」

「あっ・・・はい。」(チャリンッ)

「レシートのお返しです。ありがとうございました。」

闘いを仕掛ける前に終わってしまった。悔いを残しつつ会社へ戻る。

それから俺は昼食のカップ麺を食べ、ヌクモトのことが気になったまま午後の仕事をダラダラとこなした。あっ、ヌクモトってのは俺があいつに付けたあだ名で、由来は本を温めたがるからヌクモト。






そして、残業を終え、会社から駅へと向かう途中でふと思い立ち、ヌクモトのいるコンビニへと向かった。

(まだアイツはいるだろうか。もしいたらまた雑誌でも買って試してみるか。)

そんなことを思いながら歩みを進めていると、ちょうど例のコンビニからバイト終わりのヌクモトが出てくるのを発見した。俺はヌクモトの後をつけることにした。アイツがこの後どこへ向かい、何をするのかでやつと俺との格の優劣が決まる。

コンビニから5分ほど歩き、どうやらヌクモトは複合商業施設へと向かっているようであった。

(お前はそんなところへ向かうような人間なのか?)
(牛丼屋で飯食って直帰するような『こっち側』の人間じゃないのか?))


そんな不安に追い打ちをかけるように、ヌクモトは複合商業施設の目玉の一つである水族館行きのエレベーターへと乗った。

(これは・・・負け戦・・・?)

と思いながらも、はぐれないようにとっさにエレベーターへ乗り込んだ・・・のは良かったのだが、思いがけずエレベーター内で二人きりになってしまった。

「・・・・・。」

おそらく俺だけが一方的に緊張感に包まれていた。もしやつが俺のことを覚えていて、ここまでつけてきたことがバレたとしたら、俺は完全に変態認定されてしまう。そのとき、


ガタンッ!!

大きな揺れとともにエレベーターが止まった。どうやら地震があったようである。非常時を告げるアナウンスによるとエレベーターが動き出すまでに時間を要するという。


「困りましたねぇ」

ヌクモトが話しかけてきた。

「待ち合わせですか?僕も上で彼女と待ち合わせしてるんですが、しばらく動かないとなると待たせちゃいますよねぇ・・・。どうしたものか。」

コンビニでのバイト中と打って変わってヌクモトは気さくで明るい青年であった。そして、やつと俺との格付けバトルの勝敗を決定付ける残酷な言葉が静かに発せられていた。圧倒的敗北だった。
しかもやつは俺を「負け組」と決めつけていなかった。むしろ同じ、「クリスマスに予定ある側の人間」なのだという前提で話しかけてくれた。そんなヌクモトの優しさが、俺の悔しさを、さらに加速させた。



それはそうと、止まってから数分、暖房機器も止まったエレベーター内は12月の外の気温と同じくらいまで下がっていた。俺が少し身体をかがめて寒そうにしていると、ヌクモトがおもむろに口を開いて言った。

「あ、その雑誌・・・。温めておけばよかったですね。」

ニッコリとした笑顔とともに発せられたその言葉の殺傷力。次に言われる言葉はなんだろうか。「なんでここにいるんですか」、なんて言われた日には、俺は変態紳士としての道を歩んでいくしかないのだろうか。

「お兄さん今日ボクのバイト先で雑誌買っていった人ですよね?」

死刑執行を待つ囚人のようにビクビクとしながら次の言葉を待つ。

「・・・実はですね、お兄さん、すごく人生疲れた顔してたから。ちょっと冗談言って笑わせてあげようかなと思ったんですよ。」

穏やかな笑顔でヌクモトは言う、

「そしたらお兄さん、どっちをですかなんて真に受けた答えするからこっちが笑いこらえるの必死でした。」

彼から発せられた言葉の内容と、あのときの行動の真意はとても意外なものだった。

(なんだこいつ・・・ただのイケメンかよ・・・///)



そして、止まってから5分ほど経ったところでようやくエレベーターが動き始めた。

「いやぁ、意外と早く動いてよかったですね。」

水族館のエントランスの階までエレベーターが到着しドアが開いた。

「お先にどうぞ。」

ヌクモトはどこまでも紳士だった。

そして、彼はエレベーターを降りるなり、すぐ横にあった自動販売機に向かっていった。

「あの、これよかったら」

と言いながらヌクモトは缶コーヒーを差し出してきた。

「これで温まってください。」
「それじゃ彼女待たせてるので失礼します。」

惚れた。
これがリア充の余裕なのだろうか。大学生くらいの青年がこんな社畜リーマンに気遣いしてくれるなんて。ゆとり教育バンザイである。

「・・・帰るか。」

そうつぶやき、俺はエレベーターに乗り、駅へと向かった。









今年の俺のクリスマスは、ヌクモトという青年に心を奪われている間に終わってしまった。不思議と惨めさや悔しさ、世のリア充に対する殺意の感情もなかった。残ったのは、アイツの邪気のないただ純粋なる人への優しさと、缶コーヒーの温もりだけだった。




以上、東京から冴えない男の話をお送りしました。


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さて、タイトル的に「物語の舞台は東京」、「〜編」が5話、という縛りを設けてしまいましたが、今後どうなっていくのでしょうか。それぞれの物語がどう繋がるのか、急展開を迎えるのか、群像劇になるのか、などなど、、、残り4話!楽しみです!

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