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「以上、東京からお送りしました。」~それぞれの年明け編~

こんにちは!
第2話の最終回はわたくし菅野が担当いたします。
いやあ、難しいですねこの企画は。
ただ、みんなの想像力と文章力、若干人のこと考えながら話をすすめないといけないところから生まれるチームワークなどは、まさに宮本ゼミらしい企画でもあるかと!


それではどうぞ!

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「以上、東京からお送りしました。」

「はい、ありがとうございました。

続いてのコーナーはこちらッ!お正月太ってしまったアナタ、大注目で~す」


年末年始、テレビの情報番組では、重要なニュースに限ってないがしろにされる。
年末はどさくさにまぎれようと結婚ラッシュを迎える芸能界、デパートの高額福袋、年が明けても芸能人の誰がハワイに着いたとか、紅白歌合戦の裏側、とか。
まあ年の終わりと始まりに、わざわざ暗いニュースを聞きたいなんて人もいないだろう。

年末におきた、有名飲料メーカーの薬物混入事件も例外でなかった。
いや、薬物、かはまだわからない。

事件は12月26日、飲料メーカーの会社員男性が倒れた状態で見つかったことで発覚。
倒れる直前に飲んだと思われる缶コーヒーの中身を調べると、睡眠導入剤と同じ成分が検出されたという。
薬物の正体も、混入過程も分からず、その上コーヒーが未発売の試供品であることから不明な点が多すぎて、年末年始のニュースでもあまり取り上げられなかった。
倒れた会社員の命に別状はなく、即日退院で済んだ。

いやあ、こんな時期にこんな事件に巻き込まれたら、たまったもんじゃないだろうな。
ニュースによれば飲料メーカーの社屋は隣の区らしいから、自分もちょっと危なかったかもしれない。
いやいや、ただでさえ冴えないこの俺が、さらに不運な立場にさらされることもないか。




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私は、首元のちいさなネックレスを無意識にさわりながらぼーっとテレビを見ていた。

あの日からお守りのようにつけている華奢なデザインのネックレスはクリスマスの翌朝、レンがわざわざ家まで来て母に預けていったものだ。
クリスマスにデートをしていたのだから、直接渡せばいいものを、初めてこんなに大人っぽいプレゼントを買ってしまい、緊張のあまり渡すタイミングを逃したらしい。
家族ぐるみの付き合いだから、母も気軽に受け取って、朝早くからありがとう、とお礼に渡したのがあのコーヒーだった。

結局レンはコーヒーを飲んでいなかった。
親しい人にもらったとはいえ、自分の好みに対するこだわりは捨てきれなかったようだ。
コーヒーはそのあとで、捨てた。不気味なものが周りにあるのは気持ちよくない。
父も「普通」といっていたのだから、味にも期待できないだろう。


テレビでは、クリスマスにデートしていた場所で打ち上げられていた花火の様子が放送されていた。
あの日施設側がサプライズで打ち上げた花火を見逃したことは、後になって気づいた。
コーヒーをもらう前に周りから人がいなくなったのは、皆それを見に行っていたからだった。
今思えばそんなことまで怪しいと感じてしまった自分の危機予測センサーの強さに少し笑ってしまう。


携帯の着信音が鳴った。
彼から次のデートの誘いだった。



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ネコでいるのが、嫌になることがたまにある。

元飼い猫は格上、というネコ界の特権を最大限に生かし、俺はこの街の帝王となった。
なにもかも手に入るのに、なにか満たされない。
自分を捨てた人間をこらしめたくなって、子分たちに毒薬をつくらせて、人間のからだを乗っ取っとろうとしたのはこれで4回目。

今回も失敗した。
人生うまくいってる人間ほど乗っ取るのは難しい。
そして、失敗するときはだいたいいつも、思いもよらないやつに乗り移ってしまう。
というのも、万が一シンクロ率が低い事態に備えて、子分たちが余分に同一剤を仕込んでくれているからだ。
今回も子分は全部で3つの缶に同一剤を用意していた。

狙っていた人間は予定通り缶を手にしたが、それを違う男に渡してしまった。
自分の「容器」にはふさわしくない、冴えないやつだったから、シンクロ率が低かったのは幸いした。

予備のうちの一本は再び狙っていた男のもとへ渡ったが結局その男は飲まなかった。
人生うまくいってるやつは運命さえも操ることができるのか。

残り一本、途中まで同一化できた別の男もまた「容器」にはふさわしくなかった。
だから、もう一度着実に計画を実行したいという気持ちが強かったのか、結局その男に同一化することもなかった。

自分を捨てた、憎むべき人間め。やつらが「年末」と呼んでいるこの時期はとくにうるさい。いい大人のくせに、年の最後の日だけ盛り上がりやがって。
いつも子分がエサをもらってくる商店街のおばちゃんも、この時期はしばらく居なくなる。
そんなにネコが好きなら、そんなにネコを可愛がりたいなら、家で飼ってくれればいいのに。
エサをくれるのはありがたいが、中途半端に甘やかすのもやめてほしい。
そうやって考えているうちに、所詮自分はネコなのだ、人間がいなければ何もできないのだと痛感する。


本当は気づいているのだ。人間に報復しようとしても何も変わらないのだと。
自分はただもう一度、人間に愛されたいのだと。



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何度も仕事を辞めようと思っている。

今度はついに、会社に殺されそうになった。
まさか、自分の会社の商品に薬物が入っていて、まさか、それを自分が飲んでしまうとは。
その時のことはよく覚えていないが、コーヒーを飲んだあと、とにかく感じたことのない恐怖を感じたのは確かだった。
原因となった薬物の成分はまだ分析中らしいが、そこまで強力なものではなかったことは確からしい。


十年間経理部にいたが、最後の4年は辛くて仕方がなかった。同じ毎日のくりかえし。
異動でも、転職でもいい。とにかく違うことがしたかった。

そんな折、空きがでた営業への異動が急に決定したのが去年の春。
あれだけ違う仕事がしたかったのに、自分は人前で話すのが苦手だということを忘れていた。残業も多く、またしても苦痛の毎日だった。

クリスマスのあの夜、モニター調査の仕事で最後の女性に声をかけた時も、上手く話せず怪訝な表情を浮かべられた。
もし渡したコーヒーにも薬物が入っていたら、完全に自分が犯人だと思われていただろう。


テレビでは、お正月の特番もネタが尽きてきたのだろう、つまらないバラエティ番組がほとんどだったが、外国人が日本をヒッチハイクして旅する企画はまあまあ面白かった。

「大人は仕事しなければいけない」って、誰が決めたのか。
今年こそ仕事なんか辞めて、こうやって自由に過ごしたい。



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冴えないやつでも、生きるのは楽しい。

クリスマスの日以来、どう考えても気まずくて、ヌクモトのいるコンビニには行けなかった。
しかし、年も変わって仕事初めのこの日、やっぱりヌクモトのことが気になって、帰りがけに立ち寄ってみることにした。

店内にヌクモトらしき人はいなかった。
入ったからには何か買おうと粒ガムを手に取りレジへ向かう。

「いらっしゃいませー」

「あ…のうー ヌクモトさんって今いますか?」

それは意図せず発したことばだった。
そしてレジのおばちゃんの

「ん?ヌクモトさん?ちょっと知らないわね…私パートで週1回しか来ないから…まだ会ったことない方かもね」

という返事を聞いて初めて自分の失敗に気づいた。
ヌクモトなんて名前、自分以外の誰も知るはずがない。

自分の冴えなさに改めて落ち込む。

なんともいえぬ恥ずかしさと寂しさを感じながらコンビニを出た。

ヌクモトはまた戻ってくるのだろうか。
再び出会ったときの気まずさよりも、戻ってきてほしいと思ってしまう気持ちの方が強い自分がいた。

大人になってから、こういう小さな出会いを大切にするようになった気がする。そうやって生きることを愉しめるようになった。
クリスマスのあの夜、自分にとっては何の変哲もない平日の夜が、ヌクモトによって少しだけ彩られたことには感謝したい。



******



店内はチョコレートばかりで嫌になった。
きっと明日から、包装紙を変えてホワイトデー用の売り物にするのだろう。
いや、俺だって同じ部署の女の子から5つは貰った。
買おうと思っていた週刊誌を手に取りカバンの底の財布を探しながらレジへ向かう。

「温めますか?」

と聞き覚えのある声がした。



<オワリ!>



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はい、ぎゅぎゅっと、おさえ込みました!笑
みんなの思っていたような最終回じゃなかったかもですが、こんなんでご勘弁を!

あと、忘れられかけていた全体のルール、「大人」のキーワードもねじ込んでおります。笑


次回からは第3話がはじまります。
どんなお話になるのか楽しみですね!
岩谷さんよろしくー!
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