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「大人の階段」 ‐パ・ド・ドゥ‐

こんにちは、高橋です。
長かったリレー小説企画もこれにて完結です。完結させました。それでは、どうぞ。


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僅かなカーテンの隙間から射す陽の光が、テーブル上のタバコの空き箱を照らしている。カチッ、カチッと掛け時計の秒針の音だけが、冷え切った室内に響いている。
……部屋だ。いつもと変わらない自分の部屋だ。

慌ててiPhoneを手にしてホームボタンを押す。

「09:03 12月20日 日曜日」


よかった、日曜日だ……。仕事は休みだ。


…あれ、でもこれは一体どういうことなんだ?
たしか昨晩はタバコを買うために部屋を出て、変な行列に並んだら、懐かしの大槻先生に逢ったりして。その後、階段から落ちて、何か地蔵みたいなものと話をしたような………。


その辺りからのはっきりした記憶がない。気がついたら自分の部屋で寝ていた。
でも、ちゃんとパジャマに着がえているし、特に部屋が荒らされた形跡もない。


「何も変わってないよね……?」

ふと、この世界に自分だけしかいないような気がして、とりあえずテレビをつけてみるが、休日のこの時間にニュースはしていない。コーヒーを淹れ、菓子パンを頬張りながらチャンネルを変えると、『題名のない音楽会』が、クリスマスソング特集をしていて、オーケストラがチャイコフスキーのくるみ割り人形を演奏している。それを聴いているうちに段々昨晩の記憶が蘇ってきた。

あっ!…そうだ、私、おミヤさまとかいう変なやつに会ったんだ。
そして「1人でクリスマスを過ごしたくない」とかお願いしたんだった。
でも、一体どういうこと…?あれは夢ではないよね……?

ダラダラと昨晩の事を考えてはみるものの、中々思い出すことができない。それでも色々と気になって仕方がなかった典子は、丁度お昼を過ぎた頃、昨日の場所に行ってみることにした。



簡単に身支度を済ませて外に出ると、雲ひとつない青空が広がっていた。人通りが多いとも少ないとも言えないような休日の駅前を足早に歩く。街路樹にはイルミネーションの装飾が施してあるが、まだ電気がついていないから、なんだかみっともない。

たしか、この建物だったような……。
まじまじとそのビルを見つめてみるが、特に変わった様子はない。すぐ近くに外から地下へと続く階段があったから降りてみるが、居酒屋しかないようだ。この時間はまだ営業していない。

地上に戻り、ビルの周りをウロウロしていると後ろから突然声をかけられた。


「あれ、お前は、たしか……矢吹じゃないか??」

昨日逢ったばかりの大槻先生だ。黒いダウンジャケットにショルダーバッグをかけている。

「あっ、先生、昨日はどうも……」


「えっ、昨日?昨日が何かしたのか?それにしても久しぶりだなぁ!元気にしてたか?」


「あれ、、、!?……えっ、 覚えてない!?!?」


「10年ぶりくらいか? しかしまぁ、お前も変わってないなぁ。」

その後、ここで逢ったのも何かの縁だという事で、2人は街をぶらつくことになった。典子は全く事態を把握できていなかったが、とりあえず先生についていくことにした。


「先生は、ご結婚されたんでしたよね?こんな休日の昼間に1人で何してるんですか?」


「ん? 何言ってるんだお前。誰かと勘違いしてるんじゃないか? 俺は今でも独り身だよ。今日は天気もいいし、まんだらけにでも行こうかと思ってな。」


「だって市川先生と……」


「えっ…市川先生?英語の先生のか?綺麗な人だったよな~アハハ。今頃どこかで幸せに暮らしているんじゃないかな~。」

先生は少し動揺したような様子を見せたが、2人は全く会話が噛み合わないまま、ブロードウェイに辿り着いた。そういえば、かれこれ数年間中野に住んではいるけれど、全然来たことがなかったな。そんな事を思いつつ、エスカレーターで漫画売り場へと向かった。


「先生って漫画とか好きだったんですね。意外です。私は殆ど読まないので……。」


「へぇ、そうなんだ。俺は昔からずっと好きだぜ?それに高校生を相手に仕事をしているわけだから、奴らと共通の話題を持っておきたいしな。」

店内中に埋め尽くされた漫画を見て、改めてこの国にはどれだけ漫画があるんだよ、と思った。




「あ、この漫画とか結構オススメだぞ。俺は持ってるんだけど、せっかくだしプレゼントしてやるよ。読んでみるといいよ。」

そう言って、先生は手に取った漫画をカゴに入れた。その後も先生は、何やら見たことも聞いたこともないような漫画を10冊近く選び、会計を済ませた。





2人でブロードウェイの2階を歩いていると、ふと小物屋で売られていた10cmほどの地蔵の置物が目についた。

「ん?どうした?その置物でも気に入ったのか?お前、変わった趣味しているんだな(笑)。」


「いや、そういう訳ではないのですが……何だか気になって……」

結局、典子はその置物を購入した。勿論、部屋に飾りたいというわけではなく、殆ど本能的に買わなければいけないと思ったのだ。
なぜなら、昨晩会ったおミヤさまにどことなく似ている気がしたからだ。



「そういえば、お前腹減ってないか?すぐ近くでお昼を食べようと思っててさ。」

2人はブロードウェイを後にして、路地にあるカフェへと向かった。





…ってこれはメイドカフェ??どうやら先生はここの常連みたいだが、私はこんな店に来るのは初めてだ。とりあえずこの店のオススメらしいお嬢様ランチプレートを注文する。先に出されたドリンクを飲みながら、2人はあらためてこの10年近くの間にあったことを、お互いに話をした。


典子にとっては、昨晩も同じ話をしたばかりだったが、先生の話は昨晩行列に並んでいた時のものとは全く別物だった。実は、先生はあの市川先生と一時は付き合っていたらしいが、その後別れて以来誰とも交際していないらしい。そして、どうやら本当に現在も独身のままみたいだ。

…昨日の先生は一体……。


いかにもレンチンしたようなランチプレートが運ばれてくると、話題は現在のお互いの趣味の話へと移った。先生は、いわゆるかなりの“オタク”で漫画やアニメなどに熱中しているらしかった。この種の人間は、自分が好きな事の話になると止まらなくなる。どことなく知識をひけらかすようでもあり、同時に批判的である口ぶりが、話の内容はよく分からずとも聞いていて気分が悪い。そして、周りのメイドさん達にタメ語で話しかけている姿もなんだか痛々しい。さすがにうんざりしてきた。

先生ってこんな人だったっけ……。別に、先生に恋心なんてものはないけれど、少しショックだった。たしかに高校時代にちょっと格好良いかもと思ったこともあった気がするけれど、単に高校生の自分には先生が少し大人に見えたからだけかもしれない。


店を出た後、一応連絡先を交換し、その日はそのまま帰ることになった。先生は、この後地下アイドルのライブに行くらしい。






帰宅後、先程先生からプレゼントされた漫画をパラパラとめくってみる。

「何この漫画…何で主人公だけ鳥みたいな姿をしているの…?これのどこが面白いの…?意味がわからない…。」

すると、早速、先生からLINEが送られてきた。


「今日はありがとう。久々に会えて嬉しかったし、とっても楽しかったよ(^O^)
もしよかったら今度また食事でも行かない?いきなりだけど今週の夜とかどうかな?
因みに俺は、24日とか空いてるんけど(笑)」





……気持ち悪い。いきなり誘いすぎだし、「(笑)」ってなんだよ「(笑)」って。
とりあえず既読無視することにした。





「こっちの世界はどうや?」

すると突然、鞄の中から声が聞こえた。さっき買った地蔵がしゃべりだしたのだ。

「やっぱりアナタだったのね?これは一体どういうことなのよ!?」


「よう見つけたなーとびっくりしたわ。俺はただ近くで見守ってるつもりだったんやけど。えーっと、これは簡単に言うと並行世界みたいなもんや。この宇宙はな、無数の可能性で分岐した世界が繋がって出来ているんや。せやからあなたを先生が結婚していないルートに移動させてやったんや。」


「じゃあ、私と先生で一緒にクリスマスを過ごせというの?」


「そうやな。たった今LINEも来てたやん。」


「そんなの嫌よっ……。別に私は先生の事が好きだったわけではないし、それに今日久々に話をしたけれど、私オタクは生理的に無理っ。一緒に居てもつまらないもの。それにいきなりメイドカフェに連れて行くなんて非常識過ぎるわ!」


「まぁまぁ怒るなって。なんやねん、さっきのお誘いをOKすればクリスマスを1人で過ごさなくてええのに。」


「ムリなものはムリなの!!とにかく元いた世界に戻してよ!こんな下心丸出しのLINEがいきなり来るなんて、どうせ私が誘いを断っても何度も連絡してくるに違いないわっ!そんな生活嫌よっ!」


「全くしょうがないなあ。今回は特別やで。あなたを元いた世界に戻したるわ。でもあれやで、言っとくけど時空を並行に移動するだけやから、昨日には戻れんで。今日この瞬間の、元いた世界のあなたに戻るだけや。」


「そんなの構わないわっ!あっ、でもひとつ教えて。昨晩あなたと会った世界は元の世界のルートだったの?」


「いや、あの場所は既にどのルートにも属さない、ニュートラルな時空間や。せやからアナタが俺にあった記憶はなくなる。そうやなぁ、少なくとも階段を降りてるあたりまでは、元のあなたがいたルート世界のままだったはずや。」


「なるほどね。まぁ問題ないわ。元の世界の日曜日の私なんて、どうせ今頃部屋で映画でも見て過ごしているはずだもの。」


「はいは~い、ほなっ時間もないのでいくで~。ちちんぷいぷいほーい!」

おミヤさまが再びふざけた呪文を唱えると、典子の意識が遠くなっていった………。





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………話は遡り、12月20日 日曜日、午前7時30分………


「パパ~、起きて~朝だよ~」

自分の布団に勢いよく飛び乗ってきた3歳になる息子の重さに成長を感じつつ、今日も一日が始まった。リビングの方からは、トントンと、包丁がまな板を叩く音が聞こえる。

高校教師をしている俺は、同じく教師をしている2歳下の美結と5年前に結婚した。今年で3歳になる息子の直人は、今日も元気でいっぱいだ。とりわけ贅沢な暮らしをしているわけではないけれど、特に生活に困っているわけでもない。将来の事を考えて、そろそろマイホームでも欲しいなとぼんやりと考えていたところだ。

あれ?昨晩誰かにこんな話をしたような……。
気のせいかな、きっと変な夢でもみたのだろう。

最近は、受験前の冬期講習やら進路相談やらで土曜日も出勤することが多かったから、今日くらいは思いっきり家族サービスしてやりたい。たしか、お台場で開催されている妖怪ウォッチのクリスマスイベントに直人が行きたがっていたはずだ。それに、そろそろクリスマスプレゼントを用意してやらないとな。


寝室を出て、リビングのソファにゆったりと腰をかけ、美結が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、ふとテレビに目をやるとニュース番組が流れていた。

「……続いてのニュースです。昨夜、東京都中野区中野3丁目の雑居ビルの地下2階の階段下で、女性が倒れているのをこのビルの清掃員が発見し、119番通報しました。女性は駆けつけた救急隊により、直ちに病院に搬送されましたが、2時間後に死亡が確認されました。女性は30歳前後と見られ、遺体に目立った外傷はなく、死因は脳挫傷と見られています。警察は身元の確認を急ぐともに、事件と事故の両方で捜査を進めています。………」


(完)



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はい、長くなりました。めちゃくちゃ疲れました。もう二度とこんなことしたくありません。
みんなで話し合って協力してストーリーを作り上げたグループもあったようですが、僕たちのグループは全く話合うことなく、全員が出たとこ勝負だったので大変だったと思います。

僕に順番がまわってきた時、本当に残り1話で終われるのか?大槻先生を登場させなければ、何のために出てきたのか分からないし、かといっていきなり新キャラを出すのも変だし…と悪戦苦闘した結果このようになりました。

並行世界云々は、ノリで書いたので、詳しくはツッコまないでください。あまりSF脳でないので。


さて、来週からは、いよいよ5期生の卒論日記が始まります!!
トップバッターはゼミ長の荒井くんです!
僕は、このブログを書くために、卒論に使える貴重な一日を潰してしまって泣きそうです。

それではまた、よろしくお願いします。


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